――あれからいくばくかの時間が過ぎて、今は中三の冬。
暦の上ではすでに春な昨今、卒業式も目前に迫っていた。
前哨戦 2
蓋を開けてみれば、中二後期からの猛追で、わたしは楽々希望校に前期合格したし――日頃の努力の賜物よね――、兄も大方の予想を裏切って、危なげなく後期合格していた。危なげないどころか、首位合格だ。
兄が言うには「手を抜く所を間違えた」だそうだけど、本当は違う事を知っている。
担任にリクエスト(という名の因縁)を出されて、ムキになって見事応えたら、首位をとっちゃったのである。
で、そういう“優秀な生徒候補”が受ける“義務”と言えば。
「総代、ねぇ」
“新入生総代”。この案外子供っぽい偉大なる兄は、入学式でなんか宣誓しなきゃいけない役割を負う事になった。
その事に対して、単純に賞賛のニュアンスで呟いたのだけれど、不貞腐れつつわたしの二歩程後ろを歩いていた兄には、そう受け取って貰えなかったらしい。こころなしか首筋がちくちくする。
「普段の行いのせいでしょ〜」
どうにも恨み節の篭った気配に耐え切れず、思わず言葉を零した。
そうしてじりじりと、しょうもないやりとりをしている時、ふと感じのよさ気なお店が目に留まった。どうも喫茶店らしい。
じ、とそのお店を見ていると、
「程近いな」
わたしの心を読んだ様に、兄が呟く。他人が聞けば、まるで意味が解らないけれど、要するに、高校の帰りに軽く寄れる、という事だ。
寄り道しないで真っ直ぐ帰ってきなさい、と、親に小学校の時からさんざん言い含められてた訳だけれど、親子のコミュニケーションの結果、高校に上がったら、ある程度――つまり、門限――を守れば、好きにしていい、と言質を取った。
しかし同時に、高校に入学するまではダメよ、とも釘を刺されたので、今ここでお店に寄る事は出来ない。そもそも必要最低限しかお金持ってきてないし。
と、もやもや考えていたら、件の喫茶店から制服の女の子が出てきた。
赤がアクセントになって、目を引く――それは王華高等学校の制服。
四月になったら、色違いのその制服を、わたしも着るのだ。
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