天の世界は住人も含めて悠久不滅。
刻も雰囲気も停滞し、動くのは仕事と大地だけというルーチンワークと化した世界に、双子の実兄が持つ様な不満はないけれども、だからといって厭気が差さない訳でもなく、そういう時は気分転換にと下界へと降りることもたまにはある。
青白い大地、青々とした大地、赤茶けた大地、それをひとりで、時折ふたり以上で巡ったり巡らなかったり、短かったり長かったり。気紛れかつ適当な旅だけど、必ず様子を見に寄る場所を設定していた。
深い森の中、濃い緑の影をひとり踏み締めていく。やがて丁寧に配置された結界が私を迎え――そしてそれを最小限の影響ですり抜けて村への入り口に辿り着いた。きらり、と煌めく金の髪を棚引かせた人影が、その傍で立っている。恐らくは出迎え。彼女も忙しいと思ってなるべく感知しづらいようにしたつもりだったというのに、どうやら気遣いは無駄だったようだ。
お久しゅうございます。そう言って彼女は微笑む。
しゃらり、と流れる繊細な金糸に目鼻立ちがとても整ってて――私の姉代わりだった人に、よく似てる。違うのは、笑んだ時の顔。彼女はとても歳を経た様に見えないくらい純朴そうに柔らかく笑う。あの人の笑みはいつも不敵で、自信に満ち溢れたそれだった。
そこまで考えて、ハッとする。これではまるで年寄りのようだ。
ぐっと沈黙を落とした私に、彼女は怪訝に不安が混じった様な顔で、どうかされましたか、と尋ねる。
――これだから歳をとると!
不意に浮かんだ感傷を振り払いがてら、なんでもないのよ、と誤魔化し紛れに飲んだ茶は、今日も美味しかった。
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