ある日、といっても、時間の縛りがないのであまりその表現に意味は無いのだが、“あれから”そう刻は経っていない頃。
静寂。
闇、あるいは暗黒という名の空白は、いつも通りに沈黙と、つい最近訪れたひとつの気配だけが存在していた。
ふと、先住者たる気配は、傍らにもうひとつの気配を感じたらしい。反射的に、現れた辺りに焦点を合わせた。
その気配から感じられたのは、周りと同じ“闇”。ただ、周りに比べるとずっと邪気が少ない。どうやら、精霊の類のようだった。
そしてその手には、なぜか上質な紙で包まれた箱があった。
「王からの詫びだ」
ずいっとその箱を差し出されたので、つい勢いで受け取り、それを眺めた。どうやら菓子折り――それも生菓子らしい。
面食らい、なんなのか、と半眼になりつつも菓子折りを無言で指差したところ、
「ついでに伝言がある。『愚息の面倒を見てくれてありがとう』だそうだ」
それでは失礼する、と一方的に言うだけ言って、精霊はすぐに消え失せてしまった。
再び訪れる沈黙。先程と違うのは、ただひとり残った気配の気まずさが、そこらに漂っていることだろう。
「……ホワイティス辺りが喜ぶか、午後の茶請けとして」
思わず誰へともなしに気配は呟いて、それから、自らが本来所属する世界へと、一旦帰っていった。
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