まだ隊商も出立しないような夜明け前。
郊外の緩やかな丘に差し掛かった頃、ふと、来た道を振り返ってみた。
視線の先には、ほんの数日ほど滞在し、今し方離れた、ささやかな規模の街が在った。
別れゆく街に未練は無い。
幾度となく重ねた行いであるし、次なる出会いへの期待感が強かった。そして、いつもほんの少し感じる寂寥感を、愛おしいと思っていた。それら凡てを、分け隔てなく好ましく感じていた。
渦巻く感情のまま、宵に沈む街へと眼差しを注ぐ。
楽しいひとときを齎した街へと、感謝をするように。
幾許かの時間が流れた頃、これから離れ往く街並みの向こう、豊かな実りを約束された大地の向こうから一筋、光が溢れ、急速に宵の帳が開けてきた。
それを潮時とみて、再び感謝を表す。今度は軽く体を折り、丁寧に。
それから、きっぱりと、徐々に陽の光で浮かび上がってきた街に背を向け、新たなる旅へと針路を取ったのだった。
|